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最近の研究成果よりnew informetion

凹凸ハニカム格子反強磁性体Ba2NiTeO6の磁気秩序

益田研究室
浅井晋一郎

@研究背景
 磁性イオンの幾何学的な配置や磁気相互作用の競合によって全ての磁気相互作用を完全に利得する磁気秩序が存在しないことを磁気フラストレーションといいます。 二次元三角格子反強磁性体は磁気フラストレーションをもつ単純なモデルの1つであり、最近接相互作用のみを考慮したハイゼンベルグ模型では120度構造と呼ばれる磁気構造が最も安定ですが高次の相互作用や磁気異方性によって様々な磁気状態をとりうることが知られていて、これまで盛んに研究されています。 本研究で対象としたBa2NiTeO6とBa3NiTa2O9はともにNi2+イオンからなる三角格子を有する物質です。 この2つの物質の大きな違いはその三角格子の積層の仕方にあります。図1(a), (b)に結晶構造を示します。 Ba3NiTa2O9では非磁性のTa5+イオンからなる層によって三角格子の間が大きく離れているため、三角格子間の相互作用の弱い擬二次元的な系であることが期待されます。 一方で、Ba2NiTeO6ではNi2+イオンの間の距離が三角格子面内と面間で同程度であり、無視できない大きさの面間相互作用があると考えられます。 さらに、その特徴的な積層構造から、2枚の三角格子が1枚の凸凹したハニカム格子を形成するとみなすことができます(図1(c), (d))。 この場合には相互作用J1とJ3の競合による磁気フラストレーションが期待されるので、Ba2NiTeO6においてどのような基底状態が現れるかは全く自明ではありません。

A研究内容
 我々はオーストラリア、ルーカスハイツのAustralian Nuclear Science and Technology Organization (ANSTO)に設置された高分解能粉末中性子回折計ECHIDNAを利用して中性子散乱実験を行い、Ba2NiTeO6とBa3NiTa2O9の磁気構造の決定を試みました。粉末試料は大阪府立大学理学系研究科の細越研から提供されたものを用いました。図2にBa2NiTeO6の中性子散乱プロファイルを示します。9 K以下から図中の矢印で示すところに新しいピーク(磁気反射)が現れていることがわかります。これは物質の中で磁気秩序が現れていることを示します。本研究ではBa3NiTa2O9についても3 K以下で磁気反射を観測することができました。
続いて、観測された磁気反射から群論解析とリートベルト法を用いてこれらの物質の磁気構造を決定しました。 その結果、Ba3NiTa2O9では120度構造、Ba2NiTeO6では図3に示すようなコリニアな反強磁性磁気秩序が現れることが分かりました。 Ba2NiTeO6でこのような構造が現れることは磁気異方性や高次の磁気相互作用の効果が大きいことを示唆します。 Ba2NiTeO6の磁気秩序の起源を調べるため、我々は図1(c)に示した3つの磁気相互作用と磁気異方性を考慮したハミルトニアンを用いて古典的な基底状態を計算しました。 そして、磁気相図においてJ3 ~ 0.5J1付近に実験的に観測された磁気秩序に対応する相が現れることを見出しました。 今回の凸凹ハニカム格子ではその三次元的な構造のために通常の二次元ハニカム格子では幾何学的に実現不可能な「最近接のNi2+イオン間距離が次近接のものと同程度である」という特徴をもつため、対応する磁気相互作用の大きさが同程度になりやすく、上記の条件を満たしやすい物質と言えます。 また、この場合には相互作用の競合も強くなるので大きなフラストレーションをもつハニカム格子反強磁性体として今後興味をもたれることが期待されます。 今後は中性子非弾性散乱実験などを行い、磁気相互作用の競合についてより定量的な議論を行う予定です。

記載論文
Shinichiro Asai, Minoru Soda, Kazuhiro Kasatani, Toshio Ono, Maxim Avdeev, and Takatsugu Masuda, "Magnetic ordering of the buckled honeycomb lattice antiferromagnet Ba2NiTeO6"
Physical Review B 93, 024412 (2016).



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