益田研究室
浅井晋一郎
@研究背景
物質の示す電気的性質と磁気的性質が結合するマルチフェロイック物質は、非自明な電気磁気効果などの交差相関が今後のデバイスへの応用が期待され、近年大変精力的に研究されています。マルチフェロイック物質の1つである希土類ホウ酸鉄R Fe3 (BO3)4 は希土類イオンの磁気異方性と、鉄イオンとの間の磁気相互作用によって様々な磁気構造をとることが知られています。この物質群のマルチフェロイック特性はスピン依存d-p 混成機構によって決定されることが知られており、スピンの向きにその特性が強く依存するため現れる電気磁気効果もまた多彩な振る舞いを示します。また、R=Sm, Nd などいくつかの希土類イオンを含む物質では大きな電気磁気効果を示すことが報告されており、応用上の観点からも重要な物質群といえます。一方で、Ce Fe3 (BO3)4 (図1)についてはこれまでに粉末試料を用いた磁化測定と比熱測定の結果についてのみ研究報告があり、単結晶試料を用いた研究については全く報告がありませんでした。マルチフェロイック物質では磁気構造と電気分極が密接に結びついているので、その磁気特性を詳細に調べることはとても重要です。
A研究内容
本研究では今回私たちが初めて合成に成功したCe3 (BO3)4の単結晶を用いて磁化測定、比熱測定、及び中性子回折実験を行い、磁気的性質を詳細に調べました。比熱測定からは、磁気相転移を29 Kで示すことが分かりました。一方、磁化測定で得られた磁化率の温度変化では29 Kの他に27 Kにも異常があることが分かりました。これは27 Kにおいて磁気エントロピーの変化を伴わない磁気構造の変化が起きていることを示唆する結果です。単結晶を砕いて得られた純良な粉末試料を用いた中性子回折プロファイルの温度変化を図2に示します。28 K以下では磁気反射が観測されています。これらを指数付けした結果、それぞれ格子整合及び格子不整合な磁気構造を示唆する2つの磁気伝搬ベクトル(0,0,1.5)、(0,0,1.5 - δ) が存在することがわかりました。また、δ は温度減少に伴って増大し、最低温度で0.4556(16))になることが分かりました。さらに、単結晶を用いた詳細な回折プロファイルの実験から、27 Kまでは格子非整合な磁気相に対応する反射のみが、26 K以下では2つの磁気相を示唆する反射がともに現れていることが分かりました。このような振る舞いは26 K以下において2つの磁気相はそれぞれ異なるドメインとして相分離して存在していることを示唆します。磁気構造解析の結果、格子整合な磁気相は結晶のab面内にスピンの向いた反強磁性秩序、格子非整合な磁気相はab面内に回転面をもつヘリカル構造であることが分かりました(図3(a), (b))。また、これら2つの磁気相の存在比は単結晶試料とそれを砕いて得た粉末試料で異なり、単結晶試料の方が格子非整合な磁気相がより安定になることが分かりました。このような振る舞いは結晶の歪みや格子欠陥がその存在比に大きな影響を与えることを示唆していますが、この振る舞いの起源は分かっていません。今後、より系統的に磁気特性の試料依存性を調べる必要があります。また、磁場や電場の印加によってこれらの存在比がどのように変化し、マルチフェロイック特性にどのように影響があるかにも興味がもたれます。
記載論文
Shohei Hayashida, Shinichiro Asai, Daiki Kato, Shunsuke Hasegawa, Maxim Avdeev, Huibo Cao, and Takatsugu Masuda, “Magneti order in the rare-earth ferroborate Ce3 (BO3)4”, Physical Review B 98, 224405 (2018).
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