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最近の研究成果よりnew informetion

マルチフェロイック物質NdFe3(BO3)4の磁気異方性と電気分極の構造の起源の研究

益田研究室博士課程1年
林田翔平

@研究背景
 物質の電気的性質と磁気的性質が結合するマルチフェロイクスは電場による磁気モーメントの高速制御の可能性から新規なデバイスへの応用が期待され、ここ十 数年盛んに研究されています。このようなデバイスの実現には、磁気モーメントの方向と分極構造の関係性を詳しく調べる必要があります。我々は今回NdFe3(BO3)4に注目して研究を行いました。NdFe3(BO3)4が属する物質群RFe3(BO3)4 (R=希土類イオン)は、磁性イオンとしてRとFeの二つの元素を有しており、更にRとFe間に強い相互作用があることが知られています。図1はNdFe3(BO3)4の結晶構造と磁気構造を表しています。この結晶構造特徴は結晶のc軸方向に3回回転対称性をもち、Feイオンが同じ方向に3回螺旋(31) の1次元鎖を形成している点です。磁気構造は磁気モーメントがa軸方向を向くような構造となっています。また、この物質のマルチフェロ特性はスピン依存 d-p軌道混成機構によって説明されることがわかっています。スピン依存d-p軌道混成機構ではスピン軌道相互作用を媒介として磁性イオンの軌道と周りの陰イオン の軌道とが混成することにより電気分極が発現します。この機構の特徴は局所的な磁気モーメントの配向が電気分極の構造を決める点にあります。これは磁気 モーメントの方向を決める磁気異方性が分極構造を決めていることを意味します。NdFe3(BO3)4の磁気モーメントと分極構造の関係は図2に示すように、a軸方向に磁気モーメントが向くと同じ方向に分極が現れます。したがって、NdFe3(BO3)4においては磁気モーメントをab面内のa軸方向に向かせる磁気異方性がこの物質の分極構造に重要な役割を果たしているといえます。しかしながら、これまで磁気異方性の存在は知られていたものの、その起源がどこから来るのかはわかっていませんでした。
そこで我々は分極構造の駆動力となる磁気異方性の起源を明らかにするために、非弾性中性子散乱による磁気励起の観測と、スピン波の解析による磁気ハミルトニアンの決定を行いました。

A研究内容
 我々はKEKと共同で茨城県東海村にあるJ-PARC/MLFの高分解能チョッパー分光器(HRC)において単結晶試料のNdFe3(BO3)4を 用いて非弾性中性子散乱実験を行って、磁気励起の観測を試みました。単結晶試料は東北大の大串研から提供されたものを用いました。図3は非弾性中性子散乱 によって観測された磁気スペクトルを表しています。q = (0, 0, -1.5)から反強磁性スピン波が立っていることがわかります。また、実線と破線はFeとNdそれぞれのスピン波のモードに対応しています。更にq = (0, 0, -1.5)近傍を詳しく見ると磁気異方性の存在を示唆するエネルギーギャップがあることがわかります。
この磁気スペクトルをスピン波の計算をすることによって解析しました。磁気ハミルトニアンとしては磁気モーメント間の交換相互作用とNdイオンの結晶場の 効果を取り入れました。計算した結果が図3の白線で示されています。この計算結果と実験結果を比較するとよく実験結果が再現されていることがわかります。 これによりNdFe3(BO3)4の磁気ハミルトニアンを決定しました。また、この計算ではNdの結晶場の6回回転対称を持つ項がエネルギーギャップを与えることがわかりました。
 次に、磁気異方性の起源を明らかにするために、我々は結晶の対称性を元にしてNdとFeの磁気異方性を議論しました。その結果、結晶のc軸方向について3回螺旋(31)の対称性があることに注目することによってFeのモーメントにはab面内の異方性が存在しないことを明らかにしました。 磁気ハミルトニアンの決定と、NdとFeの磁気モーメントの磁気異方性の議論の二つの結果から非弾性中性子散乱で観測されたエネルギーギャップはNdの結晶場由来のものであることがわかりました。このことはNdFe3(BO3)4内 の磁気モーメントの方向はNdの結晶場に依存していて、Feの磁気モーメントの方向はNdの磁気モーメントとの相互作用でつられて決まることを意味してい ます(図4)。電気分極の観点からみれば、分極構造は磁気異方性をもつNdイオンが駆動力となって決定されているといえます。以上の結果から、本研究は NdFe3(BO3)4においてNdの結晶場からの磁気異方性が分極構造を決定していることを初めて明らかにしました。
 今回、非弾性中性子散乱による磁気スペクトルの観測と、スピン波解析、磁気異方性の議論を行うことによって、NdFe3(BO3)4のマルチフェロイック特性がNdの磁気異方性が駆動力となって発現していることが明らかとしました。この研究における磁気異方性の議論はRFe3(BO3)4の物質群のマルチフェロイック特性を調べるうえで多くの知見を与えるものであると考えられます。

記載論文
[1] S. Hayashida, M. Soda, S. Itoh, T. Yokoo, K. Ohgushi, D. Kawana, H. M. Ronnow, and T. Masuda, "Magnetic model in multiferroic NdFe3(BO3)4 investigated by inelastic neutron scattering", Physical Review B 92, 054402 (2015).
[2] S. Hayashida, M. Soda, S. Itoh, T. Yokoo, K. Ohgushi, D. Kawana, and T. Masuda, "Inelastic neutron scattering on multiferroic NdFe3(BO3)4", Physics Procedia 75, 127 (2015).




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