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最近の研究成果よりnew informetion

リラクサー磁性体LuFeCoO4における磁性と誘電性の関係

益田研究室
左右田稔

@研究背景
 リラクサー誘電体は、広い温度領域で大きな誘電率を示すとともに、その誘電率がゆるやかな温度(T)変化と顕著な周波数(f)依存性をもつ物質群です。リラクサー誘電体は、現存する材料の中で最も大きな圧電効果を示し、数パーセントという低誘電損失、小さな温度係数をもつ理想的な圧電・誘電材料として知られており,コンデンサーやアクチュエータなど広い分野で利用されています。その物性は、Polar Nanoregion (PNR)と呼ばれる自発分極を持ちながらランダムな方向を向いた局所領域を考えることによって説明されています。我々は、磁性イオンをもつリラクサー誘電体(リラクサー磁性体)に注目し、磁性と誘電性の新たな関係を探索しています。リラクサー磁性体の研究例は少ないものの、そういった物質が全くないわけではないではありません。例えば、ペロブスカイト系(1-x)BiFeO3-xBaTiO3(BFO-xBTO)や三角格子系LuFeMeO4(Me=Cu, Co, and Mg)などで誘電率にリラクサー的振舞いが観測されており、この系で磁性とリラクサー誘電性に関係があれば非常に面白い物性が期待できます。 我々は以前、ペロブスカイト系リラクサー磁性体BFO-1/3BTO単結晶に対する基礎物性測定、中性子回折実験を行い、PNRによって生成されたナノ磁気ドメイン起源の超常磁性を発見しました。本研究では、結晶構造の異なる三角格子系LuFeCoO4を取り上げます。

A研究内容
 LuFeCoO4では、誘電率にリラクサー誘電性が観測されているとともに、Fe3+とCo2+が磁性を担っています。LuFeCoO4単結晶に対する磁化、誘電率測定、中性子散乱実験を行い、この系の磁性とリラクサー誘電性の関係を詳しく見ました。中性子回折実験は、茨城県東海村にあるJRR-3の三軸分光器T1-1(HQR)とスイスにあるPSI/SINQの単結晶回折装置TriCSを用いて行いました。 リラクサー誘電性の起源であるPNRは、Bragg反射周りの核散漫散乱として観測されますが、LuFeCoO4においてもFig. 1(a)に示すように異方的な核散漫散乱が観測されました。一方磁性に関しては、Fig. 1(b)に示すようにc軸方向の磁気相関はほとんど無く、c面方向にも短距離磁気秩序を表す幅広い磁気反射が (h/3,h/3,l)に観測されました。核散漫散乱と磁気散乱の強度の温度依存性をFig. 2(a)に、面内方向の相関長をFig. 2(b)に示しますが、面内方向の磁気秩序は、温度下降に伴い徐々に成長し、それに伴い核散漫散乱も減少することがわかります。 さらに、核散漫散乱から見積もられるPNRサイズ(=相関長)と磁気相関長が密接に関係していることも明らかになりました。 中性子回折実験の結果は、磁気転移温度付近においてPNR起源のナノ磁気ドメインが存在していることを示しています。さらに磁化の磁場依存性では超常磁性の振舞いが観測されており、そのナノ磁気ドメインの平均サイズは、中性子回折実験で見積もられた磁気相関長と一致しています。すなわち、磁化測定で観測されている超常磁性の起源もPNRだと考えられます。同じくリラクサー磁性体2/3BiFeO3-1/3BaTiO3においても、PNRやそのdomain wallによる磁気秩序の抑制とPNR起源の超常磁性が観測されていますので、リラクサー磁性体ではPNR起源のナノ磁気ドメイン・超常磁性が共通な物性であることが期待されます。

記載論文
Minoru Soda and Takatsugu Masuda, “Dielectric and Magnetic Properties in Relaxor Magnet LuFeCoO4”, Journal of Physical Society of Japan Vol. 85, 034713 (2016).



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